悪魔の孤独と水銀糖の少女 感想※ネタバレ有
はじめに
どんなお話か説明している部分がありますが、これはあくまで『私はそう感じたという感想』であり、実際には異なる可能性があることはご了承ください。
※ネタバレあります
~総括~
「愛し愛される」少女シュガーリアと、それを取り巻く人々を描いた物語です。
愛することも愛されることも知らない孤独な人殺しが、シュガーリアに魅せられてどう変わるか、変わらないのかと話が進んでいきます。
シュガーリアの生々しく苛烈な偶像さと、偶像に注ぐ周囲の愛が刺さってくる作品でした・・・。
好き。
このシュガーリアという主人公、死霊術師と呼ばれる『死体や魂を操る人々』が死骸から作り出した人形のような存在なんですね。
知識欲から禁忌を研究し、自らが悪用されないよう引き籠って暮らす死霊術師グループが、せめてもの慰みにと作ってしまったのです。
(彼らにとって、愛らしさをふりまくシュガーリアは大切な存在であり、孫娘のように扱われていました。)
シュガーリアの生き様は、これでもかというぐらいに苛烈です。
「自分は愛されている」という絶対的な自信を持ち、「自分は愛している」という強い欲求を持っています。
死霊術師たちへ愛情を返すために、シュガーリアはどんな困難にもクレバーに立ち向かっていきます。
これが本当にクレバーというか、シュガーリア自身は大した能力を持たないんですけど、彼女は「愛し愛される」プロなんですよね。能力が高く、自信もある。
その能力を使って、どんな強大な相手にも立ち向かうんですよね。
もうゴル〇13並みのプロさで、かっこよさすら感じます。
シュガーリアばかりに目がいきがちですが、ヒロイン悪魔背負いの男ヨクサルも重要な存在ですね。
というのも、この小説、登場キャラクターのほとんどが人間ではない完成された存在なので、揺らぎのある人間が彼ぐらいしかいないんですよね。
彼は空虚な環境で、一切愛されず、また愛さずに育ったため、空っぽの人殺しになった人間です。
介抱してくれた恩人を躊躇なく殺害してお宝まで奪っていくあたり、かなりの悪党ですね。
ただ実のところ、彼が悪事を働くのは、幼い頃から上に叩き込まれたことを反復しているだけなんですね。
ただの奴隷根性であり、彼自身の望みは、どこにもありません。
シュガーリア以上に都合の良い道具でしかない存在です。
(というか、シュガーリアは人間的なんですよね。己の欲望もあれば、他と混ざっても溶けないぐらい、自我も強いわけだし。)
彼はシュガーリアという苛烈な存在に出会って、彼女を通して、愛を知るとかそういうことではなく、自分がいかに都合の良い道具であったのかと内省するんですね。
それで奴隷根性がすべて消えるとかはないんですが、少なくとも自分がどういう存在なのか、自覚することができました。
ヨクサルはどうあがいても孤独な存在であり、シュガーリアは異端の人形です。
その孤独や苦しみは永遠に続きます。
それでも変わることなく、そのままの自分で生きて、そのまま得られた別の何かを大切に過ごしていく。
そんな生き方もあるのかなと信じさせられるお話でした。