“文学少女”見習い シリーズ 感想※ネタバレ有
はじめに
どんなお話か説明している部分がありますが、これはあくまで『私はそう感じたという感想』であり、実際には異なる可能性があることはご了承ください。
※ネタバレあります(前作も含む)。
~総括~
元気いっぱい純真な日坂菜乃ちゃんが、冷たいけど優しいツンデレ井上心葉くんと事件の謎を追う作品群です。
ドロドロした暗い人間関係に、日坂奈乃という普通に明るい人間が首を突っ込むことで、菜乃本人の性質はそのままに、一番の毒物として機能しているところが面白いですね。
かなり好みの作品です。
ドロドロな人々と、日坂菜乃という異物
登場するキャラクターたちは、ドロドロしていて、一見普通に見えても裏に暗いものを持っていることがほとんど・・・というか、主人公である日坂菜乃以外は全てがドロドロです。
(例外は、ちょろっとしか登場しないクラスメイトぐらい。)
事件の関係者はもちろん、助力者である井上心葉でさえ『友人に自殺未遂されて引き籠りになり、社会復帰できたと思いきや、すぐ愛憎混じりに復讐され、最近ようやく落ち着いた』と大変後ろ暗いものを持っています。
一方、日坂菜乃はというと、まだ大切な何かを失くしたことがありません。
『子供時代に男子と勘違いされ、以来なるべく女子っぽい格好をしている』のが心の傷と言ってのける人物なので、先ほどの心葉先輩と比べるかなり幸福な人間です。
(そもそも、この件ですら過敏に気にしていない)
このハッピーな人間をドロドロした人間関係にぶちこみ、ハッピーなことをずけずけ言わせるのが文学少女見習いシリーズです。
非常にウザイですね。
作中の人々もこいつウザいなと刺激され、様々な行動を起こします。
日坂菜乃が停滞した現状を刺激し、膿出しのような役割を果たすわけですね。
この奇妙な化学反応がなかなか面白かったです。
ドロドロしてはいるものの、基本的に前向きなお話であるため、読後感は明るく、ある意味安心して読み進められたのも好印象でした。
また、面白さだけでなく、日坂菜乃の綺麗ごとのゴリ押しは、一種の真理であり中々胸をうちます。
彼女の意見は、幸福な人間の意見です。
それ故、事件の渦中にいる後ろ暗い人たちの事情は全く考慮されていません。
(彼女自身もそのことを自覚しており、事情を知るたびに反省したりする)
しかし、後ろ暗いものを持ちながら、どこかで許しや幸福を求めている人たちにとって、彼女の意見は無視しきれることではありません。
厳しいことですが、事件の関係者たちが幸福を掴みたいと思ったら、彼女の言うように前向きに、現状に決着をつけていくしかないのです。
後ろ向きでも前向きに生きるしかない(怪しい日本語)
そんなタフネスを感じつつ、心動かされる物語でした。